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コラム

「データサイエンティストに対する期待と課題」

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2022年9月26日

主任講師・コンサルタント

山田 豊文

◆データサイエンティストの期待と必要な能力

 一般社団法人データサイエンティスト協会による1回目のデータサイエンティスト検定(以下、DS検定と略記)から1年が経過しています。2回目のDS検定は今年6月に実施され、3回目は11月に予定されています。データサイエンティストとは直訳すると情報科学者ですが、DS検定を開始されている背景には、データサイエンティストがビジネスにおいて貢献することへの期待があります。
 データサイエンティストが注目されるきっかけになったのは、2012年に雑誌ハーバードビジネスレビューにおける記事の掲載です。記事のタイトルは「データサイエンティストは21世紀で最も魅力的な職業」でした。この時点からデータサイエンティストが職種として確立することが期待されていることになります。データサイエンティストが職種として確立する前に、DS検定という資格制度が先行しています。
 DS検定においては、データサイエンティストに必要な能力はビジネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力の3つであるとしています。ビジネス力はビジネス上の課題を解決する能力、データサイエンス力は情報処理などにおける科学的な知恵を理解して使う能力、データエンジニアリング力は情報科学を実用できる能力のことです。この3つの能力から、データサイエンティストにはビジネスにおける貢献が期待されていることがわかります。

◆資格制度と職種の関係

 資格制度と職種の関係は3つに整理できます。1つ目は資格制度が職種としての確立に直結している関係、2つ目は資格制度と職種が緩やかに結びついている関係、3つ目は資格制度が先行したものの職種としては確立していない関係です。
 資格制度が職種としての確立に直結している関係の代表例に公認会計士、税理士、社会保険労務士があります。また新しい実例にキャリアコンサルタントがあります。キャリアコンサルタントは民間の資格として出発した後、2016年に厚生労働省が国家資格として認定しました。
 資格制度と職種が緩やかに結びついている関係の実例には、資格と職種の名称が異なる中小企業診断士と経営コンサルタントの関係があります。経営コンサルタントという職種は、アメリカの影響もあり日本でも第2次世界大戦前から存在していました。中小企業診断士という資格制度が開始されたのは1963年です。中小企業診断士の資格が無くても経営コンサルタントとして幅広く活躍することができます。資格取得は中小企業を支援する場合など、対外的な信用の基礎になります。
 資格制度が先行したものの職種として確立しない関係の実例にITコーディネータがあります。一般社団法人ITコーディネータ協会による資格制度は、既に20年以上の実績がありますが、ITコーディネータは職種としては認められていません。

◆職種として確立するための課題

 データサイエンティストが職種として確立することと、ビジネスにおいて貢献することは表裏一体の関係です。職種として確立するための課題はビジネスにおける貢献実績、具体的には成功事例を多数、生み出すことです。ITコーディネータは経営とITの架け橋となることが期待されながら、注目されるような成功事例が確認されていません。ITコーディネータの人数は現在、頭打ちで伸び悩んでいます。5年単位の資格更新制度がありますが、新しく資格を取得する人がいる一方、資格更新を断念する人が多いことが伸び悩みの理由です。職種として確立していないため、一定以上の時間をかけて研修を受講することなどの負担から更新を断念する人が存在しています。
 ITコーディネータ制度はネットバブルの余波が残る2001年に開始されましたが、当時の好ましい環境を活かせませんでした。データサイエンティストが職種として確立するためには、現在の好ましい環境を活かすことが期待されます。活かすべき環境は2つあります。1つはスマートフォンの普及に伴うインターネット接続の常態化によるビッグデータの活用、もう1つはデジタルトランスフォーメーションに対する高い注目度です。
 データサイエンティストが職種として確立するための課題は、ビッグデータの活用、またはデジタルトランスフォーメーションの推進において成功事例を多数、生み出すことであり、今後、この課題を克服することが期待されます。

以上

 

■コラム「データサイエンティストに対する期待と課題」