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コラム

「バランススコアカード30年の貢献と課題」

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2023年1月4日

主任講師・コンサルタント

山田 豊文

◆バランススコアカードの特徴

 バランススコアカードは約30年前の1992年に大学教授のロバート・キャプランとコンサルタントのデービット・ノートンの論文で初めて紹介されました。名前の由来は経営上の重要な4つの視点をバランス良く組み合わせて定量的に課題解決することにあります。4つの視点とは財務、顧客、業務、人材です。財務の課題解決をするのではなく、バランススコアカードは4つの視点を組み合わせて課題を解決するための手法です。
 経営手法は一時的な流行にとどまり、短い期間で忘れ去られることがあります。しかしバランススコアカードは長い期間にわたって活用されてきた代表例の1つです。バランススコアカードは多くの導入事例が確認されています。
 代表的な導入事例にアメリカではサウスウエスト航空、モービル石油(現エッソモービル)、日本ではリコー、関西電力があります。また大手企業以外に中堅企業、さらには病院や地方自治体などにも、幅広く導入されました。病院や地方自治体などが導入する場合は4つの視点を、その組織の特徴に合わせて変更します。例えば病院の場合は顧客の視点を患者の視点に、地方自治体の場合は財務の視点を財政の視点に、顧客の視点は住民の視点に変更します。

◆戦略展開と業績評価での貢献

 バランススコアカードに多くの導入事例がある理由は、組織運営の定石であるPDCA(計画、実行、確認、対応)のマネジメントサイクルに沿って課題を解決できることにあります。バランススコアカード導入の前提として組織のビジョンと戦略を必要とします。ビジョンと戦略を起点にしてPDCAのサイクルに沿って、バランススコアカードを活用することで課題解決に結びつけることができます。
 戦略を具体的に展開して、課題解決に結びつけるための方法を、バランススコアカードでは戦略マップと呼んでいます。まず財務の視点によって売上や利益の目標を設定します。目標を達成するために顧客の視点から目指すべき状態、新規顧客の開拓数や既存顧客での売上増加の必要性を明確にします。そして業務の視点で新規顧客の開拓や既存顧客の売上増加のために必要な事項を明確にします。製造業であれば新商品の開発数やウェブ広告の配信件数などです。最後に人材の視点から、新商品開発やウェブ広告担当者に対する研修回数の増加なども明確にします。
 戦略マップで明確にされた売上、利益、新規顧客開拓数、既存顧客売上増加額、新商品開発数、ウェブ広告配信件数、研修回数などを、業績評価指標として使うことで実行結果の確認、計画と実行結果の差異に対応して課題を解決することができます。このようにバランススコアカードは戦略展開と業績評価を結びつけて、PDCAサイクルを通じて課題解決に貢献するように活用できます。

◆期待される新しい事例

 バランススコアカードの導入事例が多い理由の1つに1992年以降の経営環境の変化があります。冷戦終結による経済のグローバル化、インターネットの普及などが企業のビジョンと戦略の再構築につながりました。そして再構築されたビジョンや戦略を起点として課題を解決するためにバランススコアカードが活用されました。
 導入から30年が経過したためにバランススコアカードの注目度は下がり、関連書籍は出版されなくなっています。しかしデジタル化の進展、感染症対策、環境問題の重要性向上などの経営環境の変化から、企業がビジョンと戦略を改めて見直して、課題を解決する必要性が高まっています。こうした状況を踏まえてバランススコアカードは新しい活用事例をつくっていくこと、経営環境の変化に即した切り口で戦略展開と業績評価を結びつけることが期待されます。
 例えばデジタルトランスフォーメーションを切り口として、戦略展開と業績評価を行うことが考えられます。デジタルトランスフォーメーションを切り口とする場合、財務の視点では既存事業における利益増加、新規事業又は新商品・サービスでの売上増加が重要です。そのために顧客に対して提供すべき価値、必要な業務の進め方、育成して活用すべきデジタル人材を明確にしていくことになります。
 デジタルトランスフォーメーションは1つの例にすぎませんが、このようにバランススコアカードは、今後も必要な経営手法です。これからも多くの企業が新しい切り口で活用することで、新しい導入事例をつくっていくことが期待されます。

以上

■コラム「バランススコアカード30年の貢献と課題」