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 緊急コラム

新型コロナウイルスの影響下で求められる新入社員の早期フォロー

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2020年5月14日

株式会社 学 宣

代表取締役 浜田 麻紀

◆2020年度の新入社員を取り巻く環境

 例年、GW明けは新入社員の5月病が心配される時期ですが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止への対応もあり、さらに深刻な状況になっています。新入社員の入社直後に緊急事態宣言が発出されたことで、多くの企業が通常は4月に実施する集合型の新入社員研修を延期したためです。このことは、当然ながら新入社員にも多大な影響を及ぼしています。本来であれば、4月に学習すべきことが大幅に遅れていることに不安を抱いている新入社員が少なくありません。
 また、社会人のスタート段階から在宅勤務を余儀なくされ、「職場に出社できない」「先輩や上司との接点が少ない」「同期とも会う機会がない」「実務に就いていない」といった職場での経験が不足していることへの心配や悩みを抱えながら、日々を送っています。この状態が長期化すれば、新入社員は不安な気持ちを抱いたまま孤立し、メンタルダウン、モチベーションダウン、早期離職などを引き起こすリスクが懸念されます。それらを未然に防ぐためには、新入社員を早急にフォローし、不安感を軽減することが必要不可欠です。

 

◆OJTによる新入社員フォローが急務

 4月の新入社員研修を延期した企業においても、新入社員の指導・育成は待ったなしです。今すぐに取り組むべきことは、周囲の人々が新入社員に積極的なコミュニケーションを取ること、新入社員に対する期待を示し、目標を持てるようなサポートをすることです。OJT(On-The-Job Training)によるフォローです。
 OJTは、新入社員にとって一番身近な先輩社員であるOJT担当者が中心となり、部門全体を巻き込みながら新入社員の成長を全員で支えていく人材育成システムです。特に在宅勤務中である場合は、普段以上にOJTの質が問われます。環境が整えばオンライン会議システムの活用も選択肢のひとつになりますが、仮に“face-to-face”での指導が難しい場合であっても、電話やEメールなどでのOJTを実施することが重要です。新入社員が未だに配属先での実務に就いていないという場合もあるでしょう。その場合は、新入社員に「仕事」として何らかの課題を提示し、それをOJTの材料に活用します。
 OJTのポイントは、短時間でもよいので『毎日』『双方向』でのやり取りを続けるということです。WEB配信による研修やDVDなどの動画視聴を活用している場合、そこに任せきりにすることなく、必ず「先輩社員(もしくは人事担当者)とのコミュニケーション」の場を設定することが重要です。特に、在宅勤務などで新入社員がまだ出社できていない場合は、このような積極的な働きかけが重要であり、効果を発揮します。こうした取り組みが、新入社員に「先輩との接点ができた安心感」や「自分も課の一員という実感」をもたせ、モチベーションアップにつながります。
 また、組織にとっては新入社員をより知ることができるというメリットがあります。本人の性格、得意・不得意、趣味、興味や関心の源泉等、個人的なことも多少含めて新入社員をいろいろな面から理解していることは、必ず今後の新入社員のOJT実践のプラスになります。当然、相手のことを知ろうとすれば自分自身についても開示していくことが大切なことは言うまでもありません。お互いに、ということです。信頼関係はお互いが心からのコミュニケーションを行うことではじめて醸成されるのです。

 

◆新入社員研修が担う役割の重要性

 新入社員研修の最大の目的は、新入社員を「学生から社会人へスムーズに移行させること」です。各種研修の中でも特別の役割を担っており、企業の長期的人材育成の観点からも入社時教育としてたいへん重要な位置づけとなっています。
さて、「学生から社会人へスムーズに移行させること」という目的について、経済産業省の調査(※)を参考に少し詳しく触れたいと思います。大学生の社会人観を把握するために「仕事をしていくために不足している能力」を聞いたところ、学生と企業の認識の違い、ギャップが明らかになりました。企業の側は、学生には「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーション能力」などの内面的な能力が不足していると考えているのに対し、学生が自分に不足していると考える能力は「語学力」「業界の専門知識」「PCスキル」「簿記の知識」などの知識・スキルでした。
 この調査結果は、新入社員の多くが、「企業の求める能力」が不十分な状態で入社してくることを示しています。新入社員は、組織の一員として職場で活躍するために、入社後早い時期にそのギャップを埋めて必要な能力を身につけなければなりません。「学生から社会人への移行」は、学生時代に身につけたものの延長線上で自然にできるわけではなく、自らが意識し、粘り強くギャップを埋める努力が必要です。
 しかし、「言うは易く行うは難し」。一人で取り組むことはなかなか困難です。そこで新入社員研修の活用が有効となります。自ら考え、行動し、主体的に取り組むなど、学生時代にはあまり経験してこなかった学習スタイルの研修を通して「学生から社会人へ」自らのステージを上げるのです。新入社員研修は、入社後の早い段階で導入し、社会人としてのプロ意識を醸成することが重要なのです。また、同期同士の絆を深めたり、講師のサポートが得られることも研修の大きなメリットです。
 以上のことからも新入社員研修の重要性は明らかで、実施時期が少々遅くなったとしても外せない研修です。4月に研修を延期された企業におかれましては、これからの実施でも十分効果がありますので、ぜひ導入していただきたいと思います。
(※)経済産業省:「大学生の社会人観」の把握と「社会人基礎力」の認知度向上実証に関する調査(H22年6月)

 

◆コロナ禍における新入社員研修の効果的な実施とは

 新入社員研修は、通常、研修効果を考えて入社1年目に3回(前期・中期・後期)または2回(前期・後期)、連続性のあるプログラムを構成します。研修と職場での実践(業務)を繰り返しながら自己成長、能力開発を促進するためです。そのため、前期(1回目)の研修は、可能な限り早い時期に実施することをお奨めします。コロナ禍の2020年度は、前期(1回目)の研修を6月から7月に実施することが目安になります。7月末までに前期研修が終了していれば、年度内にフォロー研修(中期・後期)を行い、2年目に送り出すことができます。
 社員が講師となる内部講師型の研修、ZOOMなどを活用したオンライン型の研修など、状況に合わせた実施方法やカリキュラムの検討も必要になりますが、一番大切なことは、採用側の責任として、新入社員を孤立させず、組織としてフォローしていくことです。

以上

■緊急コラム「新型コロナウイルスの影響下で求められる新入社員の早期フォロー」