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コラム

「リスキリングの意義と組織体制」

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2023年12月1日

主任講師・コンサルタント

山田 豊文

◆リスキリングの必要性

 リスキリングに対する注目度が高まっていることからリスキリングに関する新聞記事や書籍が増えています。注目度が高まるきっかけはダボス会議がつくりました。 ダボス会議とは世界国際フォーラムがスイスのダボスで開催している年次総会の通称です。ダボス会議ではリスキリングは2018年から3年連続で取り上げました。
 リスキリングの必要性は2つの要因を捉えることができます。1つ目の要因はデジタルトランスフォーメーション(以下、DXと略記)の潮流です。DXはリスキリングよりも早く注目され始めていますが、データと業務をデジタル化して、組織全体を変革していくために、学び直しとしてのリスキリングが必要と考えられています。
 もう1つの要因は人的資本重視の傾向です。人的資本は人材投資を通じて、人材の能力を高めることによって充実すると考えられています。上場企業は東京証券取引所から、人的資本に関する情報を開示することが求められています。また人的資本は上場企業だけではなく、中堅企業や中小企業にとっても重要です。企業が人材を採用すること、採用した人材が定着することの両方において、人材投資を積極的に行うことが重要であり、この重要性は企業の規模とは関係がありません。

◆リスキリングの事例

 昨年9月にパーソルホールディンクスが実施した調査によると、国内企業がリスキリングにおいて重視していることは「全体の底上げのためのデジタルスキル」が、 32.4%と最多でした。この調査のみならず先進的な取り組み事例でもデジタルスキルを重視していることが確認されています。旭化成はグループ全体で4万人をデジタル人材に育てることを表明しています。旭化成はリスキリングの成果を見えるようにするために、オープンバッジ制度を導入しています。オープンバッジとは電子証明書のことで、1時間程度の学習で受け取ることができるレベル1から数ヶ月かけて実務課題の解決に取り組むレベル5までを設定しています。
 旭化成のオープンバッジ制度以外には、企業内大学でリスキリングに取り組んでいる事例があります。ダイキン工業は2017年にダイキン情報技術大学を立ち上げ、毎年、約100人の新入社員を対象に約2年間、業務を担当させることなく、AIに関する学習に専念させています。学習の効果を高めるために大阪大学などから講師を招いて高度で幅広い講座を提供しています。またローソンは2003年に企業内大学を立ち上げ、幹部教育に取り組みましたが、2018年に運営を大幅に見直して現場では学ぶことができない内容を中心に多彩なプログラムを用意しています。ローソンは企業内大学に加えて、2022年からオープンバッジ制度も導入しています。

◆組織体制での活用

 先進事例を含めたリスキリングへの取り組みには2つの懸念があります。懸念の1つ目はリスキリングの内容が対象者1人1人の実態に合っているかどうかです。もう1つの懸念はリスキリングによって新しい能力を習得できた場合、その能力を発揮できるかどうかです。この2つの懸念を払拭するためには、リスキリング対象者が所属する組織においてリスキリングによって取得した能力を発揮して、業務遂行を通じて貢献度を高めることが必要です。言い換えるならばリスキリングの効果を組織体制において活用してこそ、リスキリングに成功したことになります。
 こうした組織体制での活用を実現するには、リスキリング対象者本人のみならず、対象者の上席者もリスキリングの意義、習得できる能力とその発揮方法を理解しておくことが必要です。さらに上席者にはリスキリング対象者が習得した能力を発揮することを支援することも期待されます。
こ のような望ましい状態を実現するためにはリスキリングに本格的に取り組む前に、組織体制での活用を前提に人事部門、経営者、現業部門の管理職が協力できるような体制をつくることが必要です。

以上

 

■コラム「リスキリングの意義と組織体制」